人間はなぜ痛みを感じるのか?その意味を科学と身体の視点から読み解く

目次
人間はなぜ痛みを感じるのか?
私たちはなぜ痛みを感じるのでしょうか? それは単なる不快な感覚として片付けられるべきものではありません。
痛みには、私たちの身体と脳、そして心の深い関係が隠されています。ここでは、神経科学・生理学・臨床的視点から「痛みの本当の意味」を読み解いていきます。
痛みとは何か? その分類と定義
国際疼痛学会(IASP)によると、痛みとは「実際の、あるいは潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷に関連した不快な感覚および情動体験」と定義されています。
痛みは以下のように分類されます。
痛みの分類と特徴
- 侵害受容性疼痛:組織の損傷によって発生(例:打撲、炎症、捻挫)
- 神経障害性疼痛:神経自体が損傷・誤作動している(例:坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛)
- 中枢性疼痛:中枢神経系(脳・脊髄)レベルで発生(例:線維筋痛症、脳卒中後の疼痛)
痛みのメカニズム:脳と身体の神経伝達プロセス
痛みの感知から認識までは、以下のようなプロセスを経て行われます:
- 侵害受容器(nociceptor):皮膚・筋肉・内臓などに存在し、温度・圧力・化学物質などの有害刺激を感知。
- 一次求心性ニューロン(Aδ線維・C線維):刺激を脊髄後角に伝達。
- 脊髄後角(dorsal horn):情報を修飾・統合し、視床へ中継。
- 視床(thalamus)と大脳皮質(somatosensory cortex):痛みの認知と情動反応(苦痛)を処理。
重要:痛みの強さは、組織の損傷度ではなく脳の認知に左右される
痛みの役割:私たちを守る“神経的警報システム”
急性痛は「身体の損傷を知らせ、保護する」ための機能です:
- 火傷時に反射的に手を引っ込める
- 骨折後の安静によって自己修復が促進される
しかし慢性痛は、生理的警報の「誤作動」と言える状態です。
慢性化の悪循環
- 身体の損傷が治癒
- 痛みだけが残る
- 不安・恐怖・緊張によって神経が過敏化
- 痛みの“予測”によって実際に痛みが生じる
このサイクルは「中枢感作(central sensitization)」と呼ばれます。
心・神経・自律神経系と痛みの統合的関係
関与する脳部位と神経機構
脳の部位と役割
- 扁桃体:恐怖・不安の記憶とリンクし、痛みに対する情動反応を増幅
- 海馬:過去の痛み体験と結びつき、予測的な痛み体験を生み出す
- 前帯状皮質:注意・共感・情動的痛みの調整に関与
また、自律神経系(交感神経・副交感神経)のバランスが崩れると
- 筋緊張・末梢循環の低下
- ホルモン・免疫系の乱れ
- 呼吸パターンの浅さ
といった“痛みの増幅因子”が重なっていきます。
身体からのアプローチ:構造と神経の調和
薬物療法では脳の痛み認知を一時的に緩和できますが、構造的・機能的アンバランスが原因であれば根本的な解決には至りません。
施術でアプローチすべき主な要素:
- 筋膜の過緊張(トリガーポイント)
- 骨盤や脊柱、頭蓋骨のゆがみ
- 頭蓋仙骨系(craniosacral system)の圧迫
- 横隔膜の柔軟性や呼吸の質
オステオパシー、カイロプラクティック、頭蓋療法などはこれらの要素にアプローチすることで、神経系全体の“過敏化”を鎮め、「痛みの閾値」を引き上げることに寄与します。
まとめ:痛みは“対話”すべき信号である
私たちは「痛み」を避ける対象と考えがちですが、実際には身体や神経からのメッセージとしての側面が大きいのです。
痛みを理解するカギ
- 構造的なゆがみ → 姿勢・筋膜・頭蓋の評価
- 神経系の感受性 → 中枢感作の有無
- 情動との関係 → 心理・社会的背景
痛みは敵ではなく“気づき”であり、 それを受け入れ、調整していく過程そのものが治癒の道筋なのです。
補足:本稿は生理学的・神経科学的文献を元に再構成された一般向け解説です。 必要に応じて専門家への相談を推奨します。