マッスルエナジーテクニック

マッスルエナジーテクニック(Muscle Energy Technique, MET)とは

創始者と歴史

マッスルエナジーテクニック(Muscle Energy Technique, MET)は、フレッド・ミッチェル Sr. D.O.(Fred Mitchell Sr., D.O.) によって1940年代に開発されました。

その後、彼の息子であるフレッド・ミッチェル Jr. D.O.が理論と技術を発展させ、1970年代にはオステオパシーの徒手療法として確立されました。

このテクニックは、筋肉の等尺性収縮を利用して、骨格系のバランスを改善し、関節の可動域を回復させる方法として広く知られています。

マッスルエナジーテクニックの概論

マッスルエナジーテクニック(MET)は、患者自身の筋収縮を利用するアクティブな治療法です。従来の徒手療法とは異なり、患者が能動的に動作に関与する点が特徴です。

基本原理

  • 患者が筋肉を軽く収縮させる(等尺性収縮)
  • その状態を約3〜5秒保持
  • その後、治療者が抵抗を解除し、筋肉をストレッチ
  • これを数回繰り返すことで、筋緊張の低下や関節可動域の向上が期待できる

このテクニックは、筋紡錘やゴルジ腱器官を活性化し、神経筋のリセットを促すことで、筋の過緊張を抑制し、正常な関節運動を取り戻すことを目的としています。

検査と治療の手順

  1. 可動域の評価
    • 関節や筋肉の制限を触診し、左右差をチェック。
    • 痛みや制限のある方向を特定。
  2. 適切なポジションの設定
    • 制限された可動域の終末近くに患者を誘導。
    • 治療者は、関節や筋肉のラインを考慮してポジショニングを調整。
  3. 筋肉の収縮を促す
    • 患者に「軽い力で」特定の方向へ押すように指示。
    • 治療者はその力に対抗して等尺性収縮を誘導。
    • 約3〜5秒間キープ。
  4. リラクゼーションとストレッチ
    • 筋収縮後、患者にリラックスしてもらい、治療者がストレッチ。
    • この過程で筋の緊張がリセットされ、可動域が拡張。
  5. 繰り返しと再評価
    • 3〜5回の反復を行い、可動域の変化を評価。

特徴

マッスルエナジーテクニックの主な特徴は以下の通りです。

  • 患者が能動的に関与する
    • 他の徒手療法とは異なり、患者の筋力を活用する。
  • 神経筋のリセットを促進
    • 筋紡錘やゴルジ腱器官を刺激し、過剰な緊張を抑制。
  • 低刺激で安全性が高い
    • 過度な力を必要とせず、高齢者や急性期の患者にも適用可能。
  • 即効性がある
    • 施術後すぐに可動域の改善や痛みの軽減が期待できる。

効果

マッスルエナジーテクニックには以下の効果が期待されます。

  1. 筋緊張の低下
    • 筋の過緊張を抑制し、柔軟性を向上。
  2. 関節の可動域の拡大
    • 制限された関節の動きを正常化。
  3. 姿勢の改善
    • 筋のアンバランスを整え、骨格のアライメントを修正。
  4. 痛みの軽減
    • 関節可動域の向上に伴い、疼痛が軽減。
  5. スポーツパフォーマンスの向上
    • 筋肉の柔軟性と協調性が改善し、運動効率が上がる。

適応症

マッスルエナジーテクニックは、以下の症状に適応されます。

  • 慢性的な筋緊張や痛み(肩こり・腰痛など)
  • 可動域制限を伴う関節の問題(四十肩・五十肩、股関節の可動域低下など)
  • 脊柱の機能障害(頚椎、胸椎、腰椎の可動性低下)
  • 骨盤のゆがみや仙腸関節の機能異常
  • スポーツ障害(捻挫後の筋バランス調整など)
  • 姿勢の不良による筋骨格系のアンバランス

まとめ

マッスルエナジーテクニック(MET)は、患者自身の筋収縮を利用して、筋肉の緊張を調整し、関節の動きを改善する効果的な徒手療法です。

特に、筋肉の柔軟性を高め、可動域を広げることができるため、スポーツ選手や慢性的な筋肉の緊張を持つ患者に有効です。また、痛みが少なく、安全性が高い点も大きな利点です。

オステオパシーのテクニックとして、ストレイン・カウンターストレインやポジショナルリリースなどの他の手技と組み合わせることで、より効果的な治療が可能となります。